Winny高裁判決と、欧州型裁判制度の限界

ファイル交換ソフトWinny制作者が、著作権侵害幇助の罪に問われた事件について、控訴審が無罪判決を言い渡したそうです。

これは残念ながら、「どこに力点を置いて議論を審議したか」によって答えが変わる内容ですかせ、この判決そのものについての是非は問いません。おそらく地裁側が「公共の利益」を中心に「迷惑かけた現況だから、何かペナルティを」としたのに対して高裁は「純粋に罪状に照らし合わせて是非を問うた」事になると思います。判決文読んでないから論評をベースに話をしていめに過ぎませんので、どっちがより正しいかという問題になると、「その時の風潮による」んじゃないかと思うわけですが。

ちなみに、私は「罪状はともかく、Winny開発者に罪はあるかどうか」と言われたら「あります」とはっきり言います。
と、いうのは、当時すでにファイル交換ソフトによる著作権侵害事件は相当数発生しており、またそのソフトの存在故にネットワーク帯域を圧迫していた事もはっきりしていた訳で(アメリカにおけるナップスター等の交換ソフトが引き起こした事例による)、開発時点で判っていた問題を回避するのは開発者の責務であるというのは当然の事だと思うのですが。
だから、刑法上では無罪でも、社会的には罪を背負うべきだと思いますね。

被告曰く「開発者が想定していない使い方をされただけで犯罪となるなら、殺人を犯した凶器の包丁を作った職人が殺人幇助で逮捕されないのはおかしい」であるが、「ファイル交換ソフトは著作権侵害に使われる悪いもの、包丁で人を刺し殺すのは間違った使い方」という形で通念が形成されている状態でこの主張は通らないと思いますよ。
せめて「大麻の搬送に宅急便を使ったからって、宅急便のシステムを考えた人が訴えられないのはおかしい」なら判りますけどね(モノを運ぶ=データをやりとりする、という意味で同種。ちなみに貨物運送は、法律により内容物を配送業者が検閲することが出来ない)。
ただ、確か問題になる度に「正面から解決する」事をせず「逃げ道ばかり探して改造した」ように見えるんですよね。それはおかしいだろう、と。

ちなみに、被告の言い分が正しいなら、エコナ油の発ガン性に気づかなかったメーカーは何ら責任を負わないし、森永ヒ素ミルク事件も水俣水銀事件も、作り手は一切罪も責任も負わないという暴論が成立します。
それは、おかしいでしょう。そんな当たり前の事を無視して「開発者の意欲が損なわれる」はおかしいですよ。

久保田としては、目的の機能を果たすために必要だったのは「ファイル交換ソフト」ではなく「期間限定、アップロードサイト・投稿者からの寄付で運営」というビジネスモデルだったんじゃないかな、と思うわけです。しかも、それをやるのはあくまで2chサイドが有志を募って(別に、現状の「勝手連型ログサイト」でも良いのだが、それを「はてなブックマーク」形式なりWiki形式などで公式サイトで検索可能なシステムにすれば良いと思うのですけれど)、なるべく拡散を防止していくべきだったと。

毎度のことだけど、久保田は2chが嫌いです。嫌いだけど、存在の否定まではしません(あくまでアングラ的な所という意味で、そういう存在はあっても悪くない)。嫌いな理由の一つが「増殖と暴走を制御できない上に責任の所在が曖昧だから」というものがあります。たとえば昔のNiftyServeのように、責任の所在が判りやすい仕組みの中で暴走していてくれれば問題が起きたときに大人の対応がしやすいのですが、2chはそれを否定する所から入っているようにも見えるので、そこがとても嫌なのです(有志のスタッフが問題発言に対応する、といっても、Niftyのシスオペのように研修会開いて期間内の責任を明確にするなどの行為を行っている訳ではない以上、責任と言えるモノがあるとは思えない)。
今回の件も、精度の不備を「ゆがんだ善意」の名の下に行ったものだと思うので、社会的に問われる責任という意味での罪は、開発者側に存在すると思います。
ただ、刑法的にそうであるかどうかは別ですが。

なんとなく、正面から議論する事を避けた時点で、この人は開発者ではなく「プログラムヲタクの厨房」だったように思います。開発者を名乗るには、少しおこがましいと思いませんか? すでに同じ種類のソフトで社会的に問題がおこた板にも関わらず、予見できなかった、なんて言うのは。

※実はここから、著作物に関わる対価の話に繋がらねばならないのだが。