相模原市新スタジアム問題(市側が門前払いした件)についての考察

ノジマ相模原ライズの新本拠地になるかもしれなかった相模原北口駅前の旧米軍施設返還後のスタジアム事業について、2025年5月に相模原市が実質門前払いした件で、未だX(旧Twitter 以下「ぺけった」)でスタジアムについてろ喧々諤々が続いているので、触れておきたい。

上記リンクはSC相模原が公開した「提出案」である。

でね。これ致命的な齟齬があるのね。
相模原市は公募の時点からずっと「民設民営」「市が施設等のために支援したり負担したりする事はない」といっているのに、「市に寄贈する」っていうダメダメな言葉が燦然と輝いている訳ですよ。
ちなみに建設して市に寄贈して指定管理者として業者(ここでは主たる利用者であるプロ球団)が運営するというスキームはここ最近(特に吹田スタジアム以降)の流行なんだけど、これは市の考え方相容れない。

どういう事かというと、まず相模原市という場所の特性がある。

  • 市内に本店登記されている大規模事業所(法人税の収入)がない。なお法人市民税は工業団地の工場から得られるが、吹田・広島・長崎とは比較にならない小ささ。
  • 相模原市に昼間流入する労働者人口が少ない。基本、東京都心・横浜川崎の沿岸部・八王子豊田立川あたりに出てしまうため、市内消費が少ない。
  • 少なくとも電車で1~1.5時間で新幹線(東京・新横浜)や羽田(京急の第一・第二ターミナル)にたどり着けてしまうので、日曜日昼間の試合だと(例えば15時始まり17時終わりで相模原駅から直接乗る場合で行けば)早朝出発・帰りは19時台発の新幹線・飛行機で帰宅できる可能性が非常に高い。
  • 同様の理由で宿泊施設の多い横浜・新横浜、八王子、府中付近まで簡単に移動できる為、平日の稼働率が低いホテルなど必要ない。
  • なまじ政令指定都市にしているが、平成の大合併で津久井郡を取り込んだ事で公共事業(交通インフラや社会インフラ)の負担が高くなり、有り体に言えば「資金不足」である。
  • 地域的に言って町田とカリバニズム(市場の取り合い)を起こしている。

と、結構このプランに対して「相当に分が悪い条件がそろっている」事が見て取れる。
つまり、このプランでは相模原市財政に対して「ほぼメリットがない」のである。

そして「市に寄贈する」ということは「固定資産税は市が持つ」ことになる。まあ実際市の施設に固定資産税はかからないだろうが、民間施設からであれば徴収できる固定資産税を「ゼロ」にしてまで保持するメリットがあるか、という至極当然の議論が発生する訳である。

さらにここで面倒くさいのが、長崎と広島の存在だ。
どちらも勘違いしているサッカーファンが多いので注意が必要だが、広島の場合は「都市計画の中でサッカー場を含む大規模施設で、球技未使用時でも収益を上げられる仕組」と「その仕組みに合致した市場・要望が存在した」という事実、長崎の場合は「大規模商業施設の中核にスタジアムを据えることでトータルとして収益を計上する」仕組みであり、どちらも「商圏として需要」があるという事を押さえておかねばならない。
平たく言うと、横浜・海老名・川崎・八王子・多摩センター・調布・立川立飛にすでにコンサートホールはある訳で、長崎のようなアリーナを併設する必要はない。
また、広島のように学会を年に何度も招致するような主催もない(これも東京都・神奈川県には適した会場が複数ある)。そんな中であのプランで財政出動なしで運営できるとでも?と思ってしまう。

さらに言うと、だ。土日開催のリーグ戦で3千人に届かない集客のチームが、市場調査してどれだ集客を安定して維持できるかという問題がある。しかも、J3でも中位低迷中。
確かにJ2やJ1に上がれば集客は上がるだろうけれど、既に横浜FM、町田ゼルビア、FC東京、ヴェルディと市場を食い合っている中でそれを望むか?である。
この場合今治やいわきのように「そこに目を向かせる為のメソッド」がある訳でもない(今治は愛媛FCと商圏が重なっている)。

それでいながらサガミスタ(SC相模原の熱狂的な支持者)は「○○の試合で○○万人入ったのだから、スタジアムを反故にしたせいでそのポテンシャルを無視して機会を放棄した」とか言うし「スタジアムは公共施設だからに赤字でいい」とか謎な言い訳ばかりしている。
平たく言えば「地元市民にさえ注目してもらえる努力が出来てないチーム」なのよ。ギオンスタジアム併用している団体でノジマステラ以外はなんとも「乗っかってみた」系(ダイナボアーズとライズは厳密に「ホームスタジアム」制度を採用していないので、こだわっていないっぽい)だし。
結果的にSC相模原のメインスポンサーたるDeNAが海老名・厚木移転をぶちあげたが海老名市からはしごを外されてしまっている。つまり「その程度」という話なのだ。

結局、相模原に関してはギオンスタジアムの公金投入スキーム(廃棄物処理施設の補填としての運動施設整備:このスキームは1970~2000年頃に全国で実施された都市型産業廃棄物処理施設の誘致とその補填的な動きである)の都合があるのでギオンスタジアムを再整備するしか道がなく、従って道路状況の改善と駐車施設の拡充、かつスタジアムのJ2規格への改修が最善という話になる。

なお、公共施設として自治体が整備しろとか色々言う向きがあるが、「絶対にそれでなくてはならない」という理由はない(アメリカの主な競技場の大半は大学の保有物)し、民設民営であっていけない理由はない。
また、公営は赤字でいいとかいう馬鹿理論はやめておけ。独立採算であったとしても予算時に設定された以上の公金投入は認められていない。
※最初から事業計画で建てた運営費に対する収入に、公金が設定される場合、議会承認があればそれは「赤字」とは言わない。それが「事業運営規模の1~2割である事が望ましい」とは言えど、資金ショートしたから追加投入とか最初から半額以上の収入が公金とか言われたら、地元が怒っていいという話である。

従って相模原市の選択は間違ってはいないし、まず本拠地にしているチームが自分たちで顧客開拓
・顧客維持をする努力をする事が大事なのではないかと。
今回の案は結局「なんか場所が出来るし、余所でやってる事のまねして提出すれば通るだろうて」という程度だったという事だと思う。
同時期に建設が決まった山形(天童)や福島、既に動いているいわき、出来上がった今治に比べると、地元(商工会議所や青年会)とのコミュニケーションが足りなかったと言わざるを得ない。勝手に盛り上がって勝手にコケて、勝手にオラついているだけなのだ。

都市としての状態の認識が全く出来ていない現状、果たして本当に必要とされているのか疑問である。

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